中部大学客員教授「室内空気質を数値化するメリット」

中部大学客員教授 応用生物学部環境生物科 鈴木茂

ヒトの健康に大きく影響する生活環境の1つは, 1日の半分以上を過ごす室内空気の質です。室内の空気中には,建物の材料,病害虫駆除の薬剤,家電製品,家具,その他生活由来の様々な化学物質が含まれています1。外気に含まれる自動車排ガスや排煙などの影響を受けることもあります。室内空気中の化学物質の暴露は,乳幼児,高齢者など長時間室内で過ごす年齢層が高く,体重の割に呼吸量が多い乳幼児の暴露量は,成人の1.5~3倍程度2 あります。

 

室内空気中の化学物質による健康影響のリスクを下げるには,室内空気の質を管理することが大切です。具体的な方法として,(1)化学物質の汚染源を取り除くか遠ざけること,(2)換気や空気浄化装置などにより室内空気の質を改善すること,などが考えられます。これには室内空気中の化学物質の種類と濃度を測定する必要があります。測定は費用が掛かりますので,行政機関などがシックハウス対策3のひとつとして検討いただくのも一法かも知れません。例えば,行政機関がモデルケースを設定して(1),(2)の効果を評価する,室内空気の質の改善のために行う居住者の室内空気測定に補助金制度を設けるなどはいかがでしょう。建築関係者の皆様が建材,家屋の構造,換気方法などと室内空気の質の関係を調査検討し,安全安心な住まいの設計に反映されるのも有効と考えます。

室内空気の質を管理する (1),(2)の方法の効果の参考として,防虫剤パラジクロロベンゼンの調査結果4を紹介します。汚染源を取り除くか遠ざける効果として,①防虫剤がない部屋の空気中の化学物質(パラジクロロベンゼン)の濃度は防虫剤がある部屋の平均の9.4%,換気の効果では,②30分間以上窓を開けた部屋は閉じた部屋の平均濃度の8.0%でした。管理する化学物質によって,室内空気中の挙動,外気中の濃度などが異なりますので,有効な方法の検討に当たっては行政機関や専門家などに相談されると良いと考えます。

(写真は執筆の鈴木茂氏)

<1> 室内の空気をよごす主な化学物質:横浜市,https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kenko-iryo/eiken/kankyoeisei/shitsunai/kagaku.html

<2 >鈴木茂,永野敏,佐藤静雄,家屋のシロアリ防除処理によるクロルデン類の都市大気および家室内汚染,川崎市公害研究所年報,第15号(1988)

<3> 厚生労働省,シックハウス対策のページhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124201.html

<4> 鈴木茂,永野敏,佐藤静雄,神奈川県下における屋外および屋内空気中の塩素化ベンゼン類 の測定,大気汚染学会誌,21 ,pp 419~427 (1986)

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