専門家コラム「正しい家庭用防虫剤の使い方」中部大学客員教授鈴木茂氏

                                              中部大学応用生物学部客員教授 鈴木茂 
屋内空気中にある主な化学物質は、ほとんどが屋内で使用する製品中に由来します。家庭用防除剤はその一つで、繊維害虫用防虫剤、不快害虫用製剤(殺虫剤)、シロアリ防除剤、家庭用カビ取り剤などがあります。繊維害虫用防虫剤は、既にお話しました。今回は、殺虫剤として家庭で使用されるエアゾール剤、燻煙・蒸散剤(マット、リキッドなど)について、ヒトへの影響(リスク)を考えます。

「化学物質のリスク=毒性×暴露量」と言われます。正確な表現ではありませんが、化学物質のリスクはその毒性と暴露量によって評価されるという趣旨です。殺虫剤の場合、主成分である合成ピレスロイド(除虫菊成分のピレトリンに似た多種類の化学物質)の毒性と暴露量を考えます。

毒性については、多くの化学物質と同様解明は部分的で諸説あります。参考になる情報を紹介します。①天然ピレトリンと同様強い殺虫力と哺乳動物に対する毒性の弱さを有している1)、②ピレスロイドの大量吸入による咽喉頭浮腫の症例ではアレルギー体質が関係する疑い2)、③ピレスロイド系殺虫剤への環境曝露は、疾患を持つ人、とくに心血管疾患の人の死亡リスクを増加させるとの疫学調査3)、④ピレスロイド系殺虫剤への幼児期の暴露と学童期の問題行動、知的発達、ADHD(多動性症候群)、注意関連機能低下と関連(疫学)4)などです。

次は暴露についてです。前にお話した室内空気中の化学物質の健康影響リスクを下げる方法を応用すると,(1)化学物質(殺虫剤)を使用するときは,部屋を限定し、スプレー剤の場合は散布後しばらく立ち入らない、(2)換気を(1時間ごとに数分程度)行うことが重要です。かつての調査で、換気を行うと、外に発生源がない化学物質の室内濃度は1/10位5)になりました。また、室温が上がると部屋に残っている化学物質濃度が上がる傾向があります。殺虫剤は必要な製品です、効果と安全のバランスを考えた使い方を考えると良いと思います。

1) 吉岡宏輔ほか, 合成ピレスロイド(2),化学と生物14 (8) 549- 556 (1976)
2) 秋月裕則ほか, ピレスロイドによる咽喉頭浮腫の1例, Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal, 18(1) 47-51 (2013)
3) Bao WeiLiuほか, Association Between Exposure to Pyrethroid Insecticides and Risk of All-Cause and Cause-Specific Mortality in the General US Adult Population, JAMA internal medicine, 2019Dec30, doi:10.1001/jamainternmed.2019.6019
4) 西原進吉ほか, 殺虫用途の農薬への曝露とADHDを中心とした神経発達障害との関連についての疫学研究動向, 北海道公衆衛生学雑誌, 30(2), 27-40 (2017)
5) 鈴木茂ほか, 神奈川県下における屋外および屋内空気中の塩素化ベンゼン類の測定,大気汚染学会誌,21(5),419-427 (1986)

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