執筆者 中部大学応用生物学部客員教授 専門は 環境分析化学 鈴木 茂
人間は生活をより良くするために,沢山の化学物質を創ってきました。これまでに製造された化学物質は147,000,000種以上*1あり,私たちは日常的に数万種類の化学物質とともに暮らしています*2。これらの“ヒトが創った化学物質”は,太古から人間が接してきた化学物質とは異なり,ヒトの体に思いがけない影響を及ぼすことが少なくありません。
アレルギーもそのひとつと考えられます。アレルギーは,アレルギー反応を引き起こすIgE抗体(免疫グロブリンE)に原因物質(アレルゲン)が作用することで起きる症状ですが,太古から存在するアレルゲンが現代人に花粉症などのアレルギー症状を多く引き起こす原因のひとつは化学物質と考えられます。例えば,(1) 2歳までに抗生物質を使用したヒトは,湿疹のリスクが15~41%増加し,花粉症のリスクが14~56%増加している*3,(2) イギリスの6-7歳児のぜんそくのリスクと花粉症はLithuaniaの10~20倍高い*4など,“ヒトが創った化学物質”がアレルギーの原因と考えられる疫学研究結果は多数あります。
アレルギーを起こす化学物質として明らかになっているものは限られますが*5,アレルギーを起こす化学物質,疑いのある化学物質を生活環境から取り除く努力は大切です。そのことはアレルギーのリスク削減になるとともに,アレルギーを誘発する新たな物質を見つけ出す可能性が広がります。生活環境でとくに影響が大きいと考えられるのは,人間が1日の半分くらいを過ごす屋内空気中の化学物質です。食物中の化学物質は消化管の壁を通じて血液に入りますが,空気中の化学物質は肺胞から血液に直接溶け込むため,より多くの影響を受けます。とくに発生源が室内にある化学物質は暴露量が大きいことに留意が必要です。例えばパラジクロロベンゼンは防虫,防臭剤として室内で使われています。私が行った調査では,洋服ダンスなどの密封空間では平均20ppm (ml/空気1m3),防虫剤のある室内では0.7ppm,防虫剤のない室内ではその約1/10,屋外では屋内の約1/1000でした。
【参照資料です,文字数が多くなるので,知りたい方は問い合わせいただくではいかがでしょう?】
*1 Chemical Substances – CAS REGISTRY, http://www.cas-japan.jp/content/chemical-substances.html
*2 環境省, PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック, https://www.env.go.jp/chemi/prtr/archive/guidebook.html
*3 Kudzyte et al. , Pediatric Pulmonology and Allergology 2004など1966~2015年に発表された22の研究論文の集計(湿疹患者394,517人,花粉症者256,609人)
*4, Joensen et al., ENV. HEALTH PERSPECTIVES 03/2009 doi: 10.1289/ehp.0800517
*5 免疫アレルギー疾患研究戦略検討会(厚生労働省),https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00900.htmlなどでの政策検討のほか学術研究が行われている。